ストーリーココナッツの味わい
カリフォルニアの影響力のあるモダニストが登場する、ヴィンテージのココナッツチェア2脚のデザインの由来について思いがけず知った物語からの抜粋。
作者: Brent Lewis
序文: Amy Auscherman
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1950年代後半に撮影された、マリブにあるクレイグ・エルウッドのハントハウスの室内。Photo © Marvin Rand; courtesy of Heritage Auctions.
何年にもわたって、私はハーマンミラーのアーカイブで、オークションやガレージセール、あるいはアンティークショップの片隅にあったジョージ・ネルソンやイームズがデザインした家具を購入した好奇心旺盛な人々から、「領収書」に関する問合せのメールを、たくさんいただいてきました。みなさん作品が造された正確な場所(通常はミシガン)と時代(たいていミッドセンチュリー)、そして発売当初の価格を知りたがります。多くの場合、私は、家具の製造年月日を推測するのに役立つ印を探したり、価格リストを参考にするようご案内し、そして物価上昇率を考えるよう付け加えます。ハーマンミラーでは、こうしたヴィンテージの作品が製造された当時、顧客の注文データを記録していませんでした。クレイグ・エルウッドのハントハウスにあるココナッツチェアとハーマンミラーの奥深い他の作品について書き記したブレント・ルイスの記事を読んだとき、私はハント家が保管していた実際の領収書を見て興奮しました。これによって、一部のココナッツチェアは、マリブのビーチサイドがその故郷であることが分かったからです。ハーマンミラーは、オリジナルのネルソンオフィスのデザインに、新たにサステナブルなシェルのマテリアルと豊富な張地オプションを取り入れることになった今、読者の方々にこのストーリーをお伝えできることを嬉しく思っております。
Amy Auscherman, Head of Archives and Brand Heritage at Herman Miller
Amy Auscherman, Head of Archives and Brand Heritage at Herman Miller
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1956年、ミシガン州ジーランドのハーマンミラーの製造部門。
マリブでの発見
私はジョージ・ネルソンのココナッツチェアがずっと大好きでした。その風変わりなデザインは、まるで折り紙の折り始めのようです。今回は、ネルソンに加え、おそらくネルソンのオフィスで働き、チェアをデザインしたジョージ・マルハウザーと、ココナッツのかけらのようなチェアのフォルムに関するストーリーです。ゆったりとしたプロポーションで快適であるにも関わらず、アイコニックな他のミッドセンチュリーのデザインに比べて、このデザインはあまり目にすることがありません。実際に、多作であったネルソンオフィスから生まれたチェアの中でも、非常に数の少ないデザインのひとつとなっています。
ココナッツチェアは1955年にデザインされ、翌年にはハーマンミラーで製造が始まりました。ラウンジシーティングが進歩した時であり、それに伴ってハーマンミラーのオフィスは活気に満ちた年でもありました。というのも同時に、ハーマンミラーはチャールズ&レイ・イームズのアイコニックな670/671ラウンジチェアとオットマンの製造を開始しただけでなく、ネルソンのマシュマロソファを1956年に発表したからです。
ココナッツチェアは1955年にデザインされ、翌年にはハーマンミラーで製造が始まりました。ラウンジシーティングが進歩した時であり、それに伴ってハーマンミラーのオフィスは活気に満ちた年でもありました。というのも同時に、ハーマンミラーはチャールズ&レイ・イームズのアイコニックな670/671ラウンジチェアとオットマンの製造を開始しただけでなく、ネルソンのマシュマロソファを1956年に発表したからです。
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クールの誕生
ちょうど数年前、Knoll社がミース・ファン・デル・ローエの画期的なバルセロナチェアの製造権を獲得していました。バルセロナチェアは、2つの平らな面がお互い異なる角度になっているのに対して、ココナッツのシートは緩やかに伸びる曲線が背もたれを作り、そして内側にむかって徐々に傾斜しています。ある意味、約10年前にKnoll社が既に製造していた、エーロ・サーリネンのウームチェアに近似しています。ウームチェアは、間違いなく、ミッドセンチュリーモダンにおける最高のラウンジチェアとしての地位を獲得しています。しかし、ココナッツチェアの隣に並べてみると、両者はまったく異なる世界を起源としていることが分かります。3本レッグの洗練された、官能的なラインを持つココナッツチェアが、マイルス・デイヴィスの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を初めて聴いている、格好良く、時代の波に乗ったクリエイティブな人達に好評を博したことも頷けます。
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1956年撮影のハーマンミラーの宣伝用写真。
完璧なペア
ココナッツチェアにはオットマンも付けられます。長年にわたって多くの素敵なセットを私は目にしてきました。とは言っても、私としてはイームズの670/671とは違って、ココナッツチェアは気楽に使えるチェアだと考えています。オットマンのないイームズラウンジチェアは、まったくと言っていいほど不自然で、同時に頼りなくて、無防備にも見えます。ココナッツはそうではなく、単体でも誇らしげで、とても快適に座れます。一脚で十分なチェアはありますが、ココナッツはもう一脚あると強さが発揮されます。これは、互いに近接する2脚によって生まれる、組成効果に起因すると私は考えています。それぞれの背もたれの上部が上に向かって高く上がっているため、チェアのフォルムそのものと同調するそれらの間に、凹のスペースが生まれるからです。上手に撮影された写真を見ると、心を奪われるような効果がこのチェアにはあることが分かります。
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クレイグ・エルウッドのハントハウスにあるココナッツラウンジチェア。Aaron Limogesによる撮影。
平凡ではないシンプルさ
チェアに関して言えば、ココナッツほどシンプルなものは少ないということは一考に値します。座面のエッジやレッグの角は別として、まさに流れるような柔らかな外観によって、全体的にとてもエレガントな印象が生まれています。そのフォルムを彫刻として鑑賞すると、バランスの良さがわかります。チェアのまわりで動けば、チェアも人に合わせて動き、有機的なかたちと幾何学的な厳密さが混在するしなやかな曲線ラインを見せてくれます。まさに完璧なチェアなのです。
手に入れた領収書
私は2018年の夏に、非常に画質の悪いココナッツチェアの画像をメールで受信しました。チェアのカラーがオレンジピンクの一種で興味深かったこと以外は、詳細が良く分かりませんでした。もしかすると、そのデザインに対して抱いた個人的な親近感が私にすぐに返信させたのかもしれません。私は、次回のデザインオークションにそのチェアを送るようにそのクライアントに勧める一方で、見積りや条件、取引、配送など、すべて込みで約2,000ドルの価格を付けた単発の提案を書き込んでいました。その時私は、すぐに行動に移さなければならないと思っていました。今でもそうして良かったと思っています。
数日後の返信には、「2脚のセット、それとも1脚分だけのことですか?」と書かれていました。私は間違いを犯してしまったのかと思い、混乱しました。最初の問い合わせを振り返ってみると、チェアが一脚だけ映っているのが分かりました。そのためもう一度確認すると、添付書類があることに気付きました。それは、1950年代の領収書をスキャンした画像で、「ココナッツチェア2脚 - 445ドル」と記載されていました。これがこのストーリーの始まりです。
数日後の返信には、「2脚のセット、それとも1脚分だけのことですか?」と書かれていました。私は間違いを犯してしまったのかと思い、混乱しました。最初の問い合わせを振り返ってみると、チェアが一脚だけ映っているのが分かりました。そのためもう一度確認すると、添付書類があることに気付きました。それは、1950年代の領収書をスキャンした画像で、「ココナッツチェア2脚 - 445ドル」と記載されていました。これがこのストーリーの始まりです。
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アーヴィング・ハーパーによってデザインされたハーマンミラーの広告、1947年。
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アーヴィング・ハーパーによってデザインされたハーマンミラーの広告、1952年。
ストーリーの発端
何十年にもわたって生産されてきた作品の製造日とそれが本物であるかを判断するために、専門家ができることは、数多くあります。出どころのほかに、所有者や家族が提供してくれる個人的なストーリーは、背景となるストーリーや彩りを添えるため、重要で常に人を惹きつけます。そしてもちろん、オブジェクト自体にもラベルや印、工法、経年による風格などがあります。しかし、純粋に、書類に取って代われるものなどありません。
今回の場合、請求書にはさらに興味をそそる内容が記されていました。素晴らしいデザインはアート作品になり得て、作品自体に価値がありますが、素晴らしいセッティングに置かれることは、さらなる喜びを生み出します。誰もが素晴らしいストーリーを愛しますが、素晴らしいストーリーを聞くのではなく、話して聞かせることを人々は好みます。そのため、オブジェクトやそれが置かれていた場所、所有者などに関する魅力的なストーリーを話すことは、わくわくするのです。今回の場合、請求書が、偉大なる近代建築家による素晴らしいモダンハウスのひとつに、私たちを導きました。また、そのオリジナルハウスにあったチェアの画像を見つけたときは、さらなる発見につながりました。まさに、ケーキの装飾として粉砂糖やチョコをまぶすような楽しみなのです。
今回の場合、請求書にはさらに興味をそそる内容が記されていました。素晴らしいデザインはアート作品になり得て、作品自体に価値がありますが、素晴らしいセッティングに置かれることは、さらなる喜びを生み出します。誰もが素晴らしいストーリーを愛しますが、素晴らしいストーリーを聞くのではなく、話して聞かせることを人々は好みます。そのため、オブジェクトやそれが置かれていた場所、所有者などに関する魅力的なストーリーを話すことは、わくわくするのです。今回の場合、請求書が、偉大なる近代建築家による素晴らしいモダンハウスのひとつに、私たちを導きました。また、そのオリジナルハウスにあったチェアの画像を見つけたときは、さらなる発見につながりました。まさに、ケーキの装飾として粉砂糖やチョコをまぶすような楽しみなのです。
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マリブに建つクレイグ・エルウッドのハントハウス(1955~1957年)
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Photo © Marvin Rand; courtesy of Heritage Auctions.
しかし、この特別なストーリーの始まりだった、請求書自体に話を戻しましょう。請求書には、あらゆる詳細が常に記載されています。ここでは、最上部に購入者として、アメリカ西海岸で初めてミッドセンチュリーモダニズムを提唱した、近代建築家クレイグ・エルウッドの名が記されていました。
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